循環障害による肝障害の2回目はHELLP症候群です。
28歳女性
妊娠35週目に尿蛋白陽性、血圧129/96と軽度の妊娠中毒症の所見を指摘された。同日の夜間に上腹部痛、嘔吐を認めたため、23時頃、救急外来を受診した。来院時、子宮収縮は軽度あったが、内診及び(婦人科)超音波所見にて異常を認めず、ブスコパンなどの投与にて疼痛は一旦軽減したため、帰宅した。帰宅後、再度疼痛増強したため翌朝、再度来院。心窩部に反跳痛を認めたため入院となる。
WBC 15300 (Seg80%、Lymphs6%、Monos7%), Hb 13.3, Plt 3.6万, CRP 0.8, Alb 3.2, ZTT 7.2, TTT 1.2, ChE 203, T-Bil 2.4、D-Bil 1.2, AST 485, ALT 411, LDH 3778, ALP 419, LAP 335, γGTP 19, Cr 1.1, BUN 15, AMY 90, CPK 255, TCH 223
腹部超音波検査にて胆嚢壁の肥厚があり、急性胆嚢炎+pre-DICと診断し、妊娠の継続は危険と考えられ、胆摘+帝王切開術を施行した。胆摘時の肝の所見は虚血と思われる地図状の色調変化が認められた。術後の経過は母子ともに順調で、上昇した肝酵素も速やかに低下した。肝の虚血所見、dataの動きからHELLP症候群と診断した。
HELLP症候群とは、妊娠後期または分娩時に生じる母体の生命の危険に伴う一連の症候を示す状態で3大徴候の英語の頭文字を取って名付けられている。
Hemolytic anemia(溶血性貧血)
Elevated Liver enzymes(肝逸脱酵素上昇)
Low Platelet count(血小板低下)
一般的な症状としては、頭痛(30%)、視力障害、不快感(90%)と、吐気や嘔吐(30%)と、上腹部の痛み(65%)等を呈する。妊娠高血圧症候群に伴うことが多いく、その後に子癇を発症する場合も多いとされる。こういった症状を呈してきた場合、緊急に血液検査を行って診断をつけることが重要である。
HELLP症候群の本態は不明な点が多いが、血管攣縮が重要であると考えられている。双胎の頻度が多いことより、子宮が大きくなり腹腔神経叢を圧迫することより反射的に腹腔動脈が攣縮する可能性が考えられる。このような反射をReily現象という。
さらにAT-Ⅲ低値の例が多いとされており、血管攣縮から血流障害を起こし、抗血栓性に働くAT-Ⅲが少ない状況では微小血栓が生じて、血小板減少、肝酵素上昇を引きおこすものと考えられる。フィブリン沈着や内皮障害をきたした微小血管を通過する赤血球は損傷され、溶血をおこし、病的赤血球の出現となる。治療としては、緊急に急遂分娩または帝王切開妊娠継続の終了させる必要がある。
本例でみられた上腹部痛、胆嚢壁肥厚は肝動脈領域の虚血によるものであったと考えられた。
0 件のコメント:
コメントを投稿