6月5日~6月6日にかけて松山で第44回日本肝臓学会が開催され、参加してきました。
C型肝炎、肝硬変、自己免疫性肝疾患、薬物性肝障害のセッションを聞いて来ました。
C型肝炎のセッションでは、現在、標準治療となっているペグインターフェロン+リバビリン併用療法について、ウイルス量の反応で72週にすべき症例の選択がかなり正確に行えるようになったこと、新規の抗ウイルス剤であるプロテアーゼ阻害剤・telaprevir (VX-950)の本格的な治験が今秋から開始になること、 高脂血症治療薬であるフルバスタチンの併用療法でウイルス消失率が上がってくることなどが報告されていました。
肝硬変については、脂肪性肝炎の症例が増加していることが注目され、肝癌合併例の1.6%、非合併例の2.7%が脂肪性肝炎であることがわかりました。
自己免疫性肝炎のセッションでは高齢者、男性、急性肝炎発症例といった非典型例が案外多く、薬物性肝障害との鑑別が難しい症例もあることが報告されていました。
薬物性肝障害のセッションでは最近10年を前後期に分けると、市販薬の頻度が高くなってきたこと(8.1%→10.9%)、アレルギー性機序を疑わせる好酸球陽性率が低下していること(31→24%)、症状を伴わない症例が増加していることがあげられていました。また、従来から診断に重要視されているリンパ球幼弱化試験の陽性率は36%であることがわかりました。予後は治癒が87%、死亡例が3.4%でした。原因薬剤として多い薬剤は塩酸チクロピジン36例、ロキソプロフェンナトリウム24例、フェニトイン15例、カルバマゼピン15例、ウコン13例でした。
2008年6月8日日曜日
2008年4月28日月曜日
第37回肝癌症例検討会(混合型肝癌)
4月26日に東京で第37回肝癌症例検討会が開催され、参加してきました。
今回のテーマは「混合型肝癌」でしたが、基調講演に加えて各施設から様々な混合型肝癌症例が報告され、今まで持ったイメージとかなり違うことがよく分かりました。
印象的だったのは、HCV関連の症例が多いこと、術前診断は肝細胞癌であることが多いこと、肝細胞癌、胆管細胞癌以外に肉腫様変化や扁平上皮癌の成分を持つものもあることです。
半年後にはproceeding (Liver Cancer)になるので読み直すのが楽しみです。Liver Cancerは癌と化学療法社から出版されており、下記HPで紹介されています。
http://www3.ocn.ne.jp/~ccp/liver/f_liver.html
今回のテーマは「混合型肝癌」でしたが、基調講演に加えて各施設から様々な混合型肝癌症例が報告され、今まで持ったイメージとかなり違うことがよく分かりました。
印象的だったのは、HCV関連の症例が多いこと、術前診断は肝細胞癌であることが多いこと、肝細胞癌、胆管細胞癌以外に肉腫様変化や扁平上皮癌の成分を持つものもあることです。
半年後にはproceeding (Liver Cancer)になるので読み直すのが楽しみです。Liver Cancerは癌と化学療法社から出版されており、下記HPで紹介されています。
http://www3.ocn.ne.jp/~ccp/liver/f_liver.html
2008年4月21日月曜日
感染症学会報告
4月17日~18日に松江で開かれた日本感染症学会に参加してきました。
初日に東芝病院研究部の三代俊治先生の肝炎ウイルスのオーバービューがありました。今回は三代先生の地元である島根県での開催であり、出雲弁の話や、出雲風土記の話まで出て、いつも以上に面白い内容でした。お得意のE型肝炎ではgenotypeが本州と北海道で異なり、そのことが肝炎の重症度に関連していることが紹介されていました。
また一般演題では、最近増加しているgenotypeAの急性B型肝炎において一定頻度でHIVの重感染あり、使用する核酸アナログの種類に注意が必要であることが興味深かったです。
肝臓とは関係ない講演の中にも面白いものがありました。特に興味深かったのは、東京慈恵医大ウイルス学、近藤一博先生の「ヘルペスウイルスの潜伏感染と慢性疾患」の講演で、HHV-6というウイルスが慢性疲労症候群やうつ病と関連している成績を示されました。HHV-6はマクロファージや脳のグリア細胞に持続感染しているため、再活性化すると免疫異常や精神神経障碍をおこす可能性があること、再活性化を示唆する抗体が慢性疲労症候群でうつがある症例、うつ病、躁うつ病で健常人より高い陽性率であること、再活性化は仕事による生理的な疲労でも起こりうることを示されました。
こういう成績を見ると、無理のし過ぎは良くないと思われました。
詳しい内容がネット上に公開されています。興味のある方は下記HPをご覧下さい。
http://www.jst.go.jp/shincho/db/seika/2005_s/2005_s_3/2005_s_3_hiroukan/2005_s_3_hiroukan_1_1_4.htm
初日に東芝病院研究部の三代俊治先生の肝炎ウイルスのオーバービューがありました。今回は三代先生の地元である島根県での開催であり、出雲弁の話や、出雲風土記の話まで出て、いつも以上に面白い内容でした。お得意のE型肝炎ではgenotypeが本州と北海道で異なり、そのことが肝炎の重症度に関連していることが紹介されていました。
また一般演題では、最近増加しているgenotypeAの急性B型肝炎において一定頻度でHIVの重感染あり、使用する核酸アナログの種類に注意が必要であることが興味深かったです。
肝臓とは関係ない講演の中にも面白いものがありました。特に興味深かったのは、東京慈恵医大ウイルス学、近藤一博先生の「ヘルペスウイルスの潜伏感染と慢性疾患」の講演で、HHV-6というウイルスが慢性疲労症候群やうつ病と関連している成績を示されました。HHV-6はマクロファージや脳のグリア細胞に持続感染しているため、再活性化すると免疫異常や精神神経障碍をおこす可能性があること、再活性化を示唆する抗体が慢性疲労症候群でうつがある症例、うつ病、躁うつ病で健常人より高い陽性率であること、再活性化は仕事による生理的な疲労でも起こりうることを示されました。
こういう成績を見ると、無理のし過ぎは良くないと思われました。
詳しい内容がネット上に公開されています。興味のある方は下記HPをご覧下さい。
http://www.jst.go.jp/shincho/db/seika/2005_s/2005_s_3/2005_s_3_hiroukan/2005_s_3_hiroukan_1_1_4.htm
2008年3月9日日曜日
胆汁の重要性
52歳,男
入院1ヶ月前から心窩部痛あり。入院3日前に近医に黄疸を指摘され,総胆管結石嵌頓が判明。当科紹介となりました。
入院後3日目にENBD挿入したところ,1日780-1350mlの排液ありましたが、
黄疸が増悪するとともに低ナトリウム血症も進行してきたために入院後14日目に内瘻化を施行。検査値は著明に改善しました。
胆道外科領域では胆汁が肝再生を促す効果がある効果があることが知られており、外瘻化した胆汁を飲むことが昔から行われてきました。
胆汁は腸肝循環を行っており、胆汁成分が腸管内にまったく入らない外瘻は胆汁の流れに影響を及ぼしている可能性があり、早期の内瘻化が重要であることを教えてくれた症例でした。
入院1ヶ月前から心窩部痛あり。入院3日前に近医に黄疸を指摘され,総胆管結石嵌頓が判明。当科紹介となりました。
入院後3日目にENBD挿入したところ,1日780-1350mlの排液ありましたが、
黄疸が増悪するとともに低ナトリウム血症も進行してきたために入院後14日目に内瘻化を施行。検査値は著明に改善しました。
胆道外科領域では胆汁が肝再生を促す効果がある効果があることが知られており、外瘻化した胆汁を飲むことが昔から行われてきました。
胆汁は腸肝循環を行っており、胆汁成分が腸管内にまったく入らない外瘻は胆汁の流れに影響を及ぼしている可能性があり、早期の内瘻化が重要であることを教えてくれた症例でした。
2008年2月24日日曜日
循環障害による肝障害③
循環障害による肝障害の3回目は慢性うっ血肝です。
急性うっ血肝はこのシリーズの①で紹介したようなAST,ALT,LDHの著明高値が特徴ですが、慢性うっ血肝では胆道系の酵素が上昇する特徴があります。
文献的には心臓移植前後の肝機能を比較したものがあり、うっ血の改善とともにALP、γGTPが改善することが報告されています(Transpl Int. 2005; 18: 697-702)
おそらく中心静脈周囲の細胞が障害を受け、毛細胆管も一緒にやられるために胆汁うっ滞型肝障害を呈するものと思われます。
また、潜在的にうっ血肝が存在する症例で薬物性肝障害をおこすと高度な胆汁うっ滞を呈する症例がありますが、これも同様に中心静脈周囲の障害が強いためと思われます。
急性うっ血肝はこのシリーズの①で紹介したようなAST,ALT,LDHの著明高値が特徴ですが、慢性うっ血肝では胆道系の酵素が上昇する特徴があります。
文献的には心臓移植前後の肝機能を比較したものがあり、うっ血の改善とともにALP、γGTPが改善することが報告されています(Transpl Int. 2005; 18: 697-702)
おそらく中心静脈周囲の細胞が障害を受け、毛細胆管も一緒にやられるために胆汁うっ滞型肝障害を呈するものと思われます。
また、潜在的にうっ血肝が存在する症例で薬物性肝障害をおこすと高度な胆汁うっ滞を呈する症例がありますが、これも同様に中心静脈周囲の障害が強いためと思われます。
2008年2月10日日曜日
循環障害による肝障害②
循環障害による肝障害の2回目はHELLP症候群です。
28歳女性
妊娠35週目に尿蛋白陽性、血圧129/96と軽度の妊娠中毒症の所見を指摘された。同日の夜間に上腹部痛、嘔吐を認めたため、23時頃、救急外来を受診した。来院時、子宮収縮は軽度あったが、内診及び(婦人科)超音波所見にて異常を認めず、ブスコパンなどの投与にて疼痛は一旦軽減したため、帰宅した。帰宅後、再度疼痛増強したため翌朝、再度来院。心窩部に反跳痛を認めたため入院となる。
WBC 15300 (Seg80%、Lymphs6%、Monos7%), Hb 13.3, Plt 3.6万, CRP 0.8, Alb 3.2, ZTT 7.2, TTT 1.2, ChE 203, T-Bil 2.4、D-Bil 1.2, AST 485, ALT 411, LDH 3778, ALP 419, LAP 335, γGTP 19, Cr 1.1, BUN 15, AMY 90, CPK 255, TCH 223
腹部超音波検査にて胆嚢壁の肥厚があり、急性胆嚢炎+pre-DICと診断し、妊娠の継続は危険と考えられ、胆摘+帝王切開術を施行した。胆摘時の肝の所見は虚血と思われる地図状の色調変化が認められた。術後の経過は母子ともに順調で、上昇した肝酵素も速やかに低下した。肝の虚血所見、dataの動きからHELLP症候群と診断した。
HELLP症候群とは、妊娠後期または分娩時に生じる母体の生命の危険に伴う一連の症候を示す状態で3大徴候の英語の頭文字を取って名付けられている。
Hemolytic anemia(溶血性貧血)
Elevated Liver enzymes(肝逸脱酵素上昇)
Low Platelet count(血小板低下)
一般的な症状としては、頭痛(30%)、視力障害、不快感(90%)と、吐気や嘔吐(30%)と、上腹部の痛み(65%)等を呈する。妊娠高血圧症候群に伴うことが多いく、その後に子癇を発症する場合も多いとされる。こういった症状を呈してきた場合、緊急に血液検査を行って診断をつけることが重要である。
HELLP症候群の本態は不明な点が多いが、血管攣縮が重要であると考えられている。双胎の頻度が多いことより、子宮が大きくなり腹腔神経叢を圧迫することより反射的に腹腔動脈が攣縮する可能性が考えられる。このような反射をReily現象という。
さらにAT-Ⅲ低値の例が多いとされており、血管攣縮から血流障害を起こし、抗血栓性に働くAT-Ⅲが少ない状況では微小血栓が生じて、血小板減少、肝酵素上昇を引きおこすものと考えられる。フィブリン沈着や内皮障害をきたした微小血管を通過する赤血球は損傷され、溶血をおこし、病的赤血球の出現となる。治療としては、緊急に急遂分娩または帝王切開妊娠継続の終了させる必要がある。
本例でみられた上腹部痛、胆嚢壁肥厚は肝動脈領域の虚血によるものであったと考えられた。
28歳女性
妊娠35週目に尿蛋白陽性、血圧129/96と軽度の妊娠中毒症の所見を指摘された。同日の夜間に上腹部痛、嘔吐を認めたため、23時頃、救急外来を受診した。来院時、子宮収縮は軽度あったが、内診及び(婦人科)超音波所見にて異常を認めず、ブスコパンなどの投与にて疼痛は一旦軽減したため、帰宅した。帰宅後、再度疼痛増強したため翌朝、再度来院。心窩部に反跳痛を認めたため入院となる。
WBC 15300 (Seg80%、Lymphs6%、Monos7%), Hb 13.3, Plt 3.6万, CRP 0.8, Alb 3.2, ZTT 7.2, TTT 1.2, ChE 203, T-Bil 2.4、D-Bil 1.2, AST 485, ALT 411, LDH 3778, ALP 419, LAP 335, γGTP 19, Cr 1.1, BUN 15, AMY 90, CPK 255, TCH 223
腹部超音波検査にて胆嚢壁の肥厚があり、急性胆嚢炎+pre-DICと診断し、妊娠の継続は危険と考えられ、胆摘+帝王切開術を施行した。胆摘時の肝の所見は虚血と思われる地図状の色調変化が認められた。術後の経過は母子ともに順調で、上昇した肝酵素も速やかに低下した。肝の虚血所見、dataの動きからHELLP症候群と診断した。
HELLP症候群とは、妊娠後期または分娩時に生じる母体の生命の危険に伴う一連の症候を示す状態で3大徴候の英語の頭文字を取って名付けられている。
Hemolytic anemia(溶血性貧血)
Elevated Liver enzymes(肝逸脱酵素上昇)
Low Platelet count(血小板低下)
一般的な症状としては、頭痛(30%)、視力障害、不快感(90%)と、吐気や嘔吐(30%)と、上腹部の痛み(65%)等を呈する。妊娠高血圧症候群に伴うことが多いく、その後に子癇を発症する場合も多いとされる。こういった症状を呈してきた場合、緊急に血液検査を行って診断をつけることが重要である。
HELLP症候群の本態は不明な点が多いが、血管攣縮が重要であると考えられている。双胎の頻度が多いことより、子宮が大きくなり腹腔神経叢を圧迫することより反射的に腹腔動脈が攣縮する可能性が考えられる。このような反射をReily現象という。
さらにAT-Ⅲ低値の例が多いとされており、血管攣縮から血流障害を起こし、抗血栓性に働くAT-Ⅲが少ない状況では微小血栓が生じて、血小板減少、肝酵素上昇を引きおこすものと考えられる。フィブリン沈着や内皮障害をきたした微小血管を通過する赤血球は損傷され、溶血をおこし、病的赤血球の出現となる。治療としては、緊急に急遂分娩または帝王切開妊娠継続の終了させる必要がある。
本例でみられた上腹部痛、胆嚢壁肥厚は肝動脈領域の虚血によるものであったと考えられた。
2008年1月27日日曜日
循環障害による急性肝障害①
循環障害から急性肝炎によく似たデータを示す病態がいくつかあります。今回と次回はそういった病態を紹介します。
1回目は急性心筋炎に伴う著明な肝障害例です。
61歳男性
主訴:発熱、咳
現病歴:3日ほど前より発熱あり、家で市販薬内服し様子を見ていた。風邪の精査目的で当院呼吸器内科を受診。11年ほど前に肝機能異常を指摘されたことがあり、消化器内科もついでに受診。飲酒歴があったためアルコール性肝障害疑いとして検査を進めた。
CRP 11.30 mg/dl, Alb 3.8 g/dl, ZTT 3.9 KU, TTT 0.3 KU, ChE 289 IU/l, T-BIL 0.6 mg/dl, D-BIL 0.2 mg/dl, AST 2465 IU/l , ALT 1649 IU/l, LDH 4389 IU/l, ALP 355 IU/l, LAP 102 IU/l, γ-GTP 141 IU/l, Cr 2.06 mg/dl, BUN 45 mg/dl, TCH 176 mg/dl, AMY 90 IU/l, LPS 104 IU/l, NH3 59 μg/dl
WBC 8500, Hb 15.0 g/dl, Plt 14.2万, PT 16.1秒(PT活性 69.0 %)
超音波では下大静脈、肝静脈の拡大と胆嚢壁の著明な肥厚を認めるとともに心臓の運動低下を認めました。
本例は血圧が低く、循環器内科で精査したところ心筋酵素の逸脱やBNPの上昇、心電図異常を認め心筋炎と診断された。CCUに収容し、循環動態が改善することで肝機能も急速に改善した。
BNP 682.2 pg/ml, TnT-1 (+), CK 2918 IU/l, CK-MB 132.8 IU/l
1回目は急性心筋炎に伴う著明な肝障害例です。
61歳男性
主訴:発熱、咳
現病歴:3日ほど前より発熱あり、家で市販薬内服し様子を見ていた。風邪の精査目的で当院呼吸器内科を受診。11年ほど前に肝機能異常を指摘されたことがあり、消化器内科もついでに受診。飲酒歴があったためアルコール性肝障害疑いとして検査を進めた。
CRP 11.30 mg/dl, Alb 3.8 g/dl, ZTT 3.9 KU, TTT 0.3 KU, ChE 289 IU/l, T-BIL 0.6 mg/dl, D-BIL 0.2 mg/dl, AST 2465 IU/l , ALT 1649 IU/l, LDH 4389 IU/l, ALP 355 IU/l, LAP 102 IU/l, γ-GTP 141 IU/l, Cr 2.06 mg/dl, BUN 45 mg/dl, TCH 176 mg/dl, AMY 90 IU/l, LPS 104 IU/l, NH3 59 μg/dl
WBC 8500, Hb 15.0 g/dl, Plt 14.2万, PT 16.1秒(PT活性 69.0 %)
超音波では下大静脈、肝静脈の拡大と胆嚢壁の著明な肥厚を認めるとともに心臓の運動低下を認めました。
本例は血圧が低く、循環器内科で精査したところ心筋酵素の逸脱やBNPの上昇、心電図異常を認め心筋炎と診断された。CCUに収容し、循環動態が改善することで肝機能も急速に改善した。
BNP 682.2 pg/ml, TnT-1 (+), CK 2918 IU/l, CK-MB 132.8 IU/l
2008年1月13日日曜日
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