2007年7月22日日曜日

サイトメガロウイルスによる伝染性単核球症

生活スタイルの変化により、かつては成人に達するまでにほぼ100%に近い感染率であったサイトメガロウイルス感染症ですが、成人以降で初感染の事例が増えています。今回、典型例を経験したので紹介します。

27歳、男性
入院1週間前より39℃台の発熱が続いていた。近医で感冒として加療を受けるも改善せず、当院受診。肝障害も認め入院。
発熱、全身倦怠感、食欲不振以外には呼吸器症状、消化器症状はなし。
飲酒歴:なし、喫煙歴:なし
最近、多忙で寝不足が続いていた。
入院時の採血で末梢血に異型リンパ球を認めるとともにIgM型のCMV抗体が高値(IgG型も軽度上昇、EBウイルスは既感染パターン)でサイトメガロウイルスによる伝染性単核球症と診断した。入院後も1週間は38℃近い発熱が続いたが、2週目より改善傾向になり、2週で退院となった。

かつては成人のサイトメガロウイルス感染症を見たら免疫不全症(特にAIDS)を疑いましたが、近年は健康成人例が増えています。原因としては成人までの感染機会が減少していることと、本例のように過労から一時的な免疫不全状態になってウイルスが増殖し、病状を悪化させているものと推測されます。

夜更かしと免疫不全については下記の本がわかりやすく解説しています。皆さんも睡眠はしっかり取りましょう。

人生、寝たもの勝ち (単行本)
ポール マーティン (著), Paul Martin (原著), 奥原 由希子 (翻訳)
よく生きるための眠り
たっぷり眠ると……
寿命が延びる
事故に遭わない
免疫力が向上する
記憶力がよくなる
スムーズな人づきあいができる
眠る人にが福が来る

2007年7月15日日曜日

B型肝炎に対するエンテカビル療法

2007年6月16日に岡山で開催された虎の門病院、熊田博光先生のB型肝炎に対するエンテカビル療法の講演会を聞いてきました。
最近、問題になっているエンテカビル耐性ウイルスについての詳しい話が聞けましたので紹介します。

国内治験症例(抗ウイルス剤初回投与例)での検討では、投与開始3年の時点で開始時のウイルス量が非常に多かった症例群で約3%、少なかった群で約1.5%の出現率でした。ただし、解析が終わったのが半数の症例であり、最終的にはこの倍の頻度になるのではないかとのコメントでした。

一方、ラミブジン耐性症例での検討では、投与開始3年で24%の出現率でした。ただし、約1/3の症例で解析が終わっておらず、最終的には35%程度になるのではないかとのコメントでした。
ラミブジン耐性症例に対して以前より行われているアデフォビルとの併用療法については、自験例の成績で、HBV-DNA陰性化率が48週49%、96週66%、144週84%で、ALT正常化率も3年で92%であり、ラミブジン耐性例には従来通りアデフォビルの併用が推奨される成績でした。

以上を踏まえ2007年度版の治療ガイドラインが示されました。





















2007年7月8日日曜日

C型肝炎に対するペグインターフェロン+リバビリン併用療法の実際

2007年6月21日に倉敷で開かれた川崎医大肝胆膵内科、久保木眞先生のペグインターフェロン+リバビリン併用療法の講演会を聞いてきました。

お一人で1000例以上のIFN治療経験がある先生だけに、日本の大家と呼ばれる先生の講演でも聞かれないような細かなノウハウを聞くことができました。

困った副作用
・皮疹:抗アレルギー剤やステロイド外用剤で辛抱しているとそのうちに軽快してくる症例も多い。困った場合は少量のステロイドの短期投与が有効。
・口内炎:一般的な口内炎の治療は無効なことが多く、プレドニン5mg4日程度の投与が有効なことがある。
・血小板減少:血小板容積(MPV)が増えてこない症例では骨髄での血小板産生が亢進していないので出血のリスクが高くなるのでIFNの減量が望ましい。

高齢者(65歳以上)
・ペグインターフェロンの量は1.2μg/kgで開始。体重が減少したら、その体重にあわせてIFNの量を10μg単位で減量
・リバビリンは10mg/kgで開始。100mg単位で調節。500mgの場合は600mg(3cap)と400mg(2cap)を隔日に投与することで平均500mg投与とする。

インターフェロン抗体(PEG-IFNα2aの成績)
・治験では4.1%の出現率。
・自験例ではIFN治療歴のない症例で3.8%、治療歴のある症例で20%であった。
・IFN抗体が出現した症例では他のα型製剤に対しても交叉反応があることが多く、β型での治療が必要になる。


    2007年6月30日土曜日

    肝硬変と亜鉛欠乏

    最近,亜鉛欠乏で種々の神経症状をおこすことが報告されています。
    http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2006dir/n2709dir/n2709_03.htm

    肝硬変では解毒能が低下してアンモニアが蓄積する肝性脳症をおこしますが,今回,肝性脳症に亜鉛欠乏による意識障害を合併した症例を経験したので紹介します。

    63歳,男性,C型肝硬変。約10年間の肝硬変の治療歴あり。3年前から肝性脳症で入退院を繰り返していました。
    自宅療養が困難なため長期療養型施設に転院。転院後は胃潰瘍治療薬のポラプレジンク(亜鉛含有)が中止されていました。
    転院6週で昏睡状態となり,当科に紹介入院となりました。入院時のアンモニアは123と低下していましたが,意識レベルの改善は今一歩でした。
    意識レベルの低下に微量元素特に亜鉛が欠乏している可能性も考慮し、微量元素を点滴で投与したところ,翌日には意識レベルの改善を認め、食事摂取も良好となりました。
    微量元素開始前の亜鉛は34μg/dlと低値でした。

    最近,肝硬変患者さんでは亜鉛が欠乏しやすく,アンモニア代謝にも影響を及ぼしているとの報告も見られるようになっています。
    http://www.ajimed.net/kanzou/tnc/tnc08_01.html

    胃潰瘍治療薬のポラプレジンクには亜鉛が含まれており,これを内服するだけで亜鉛欠乏症が改善する報告もあります。
    肝硬変患者さんでは亜鉛欠乏にも注意が必要です。




    2007年6月23日土曜日

    健診で発見されたWilson病

    Wilson病は肝臓に銅がたまり、進行すると肝硬変になる病気です。
    脳にも銅がたまって神経症状も出ます。昔は神経症状が出てから発見される症例が多かったですが、最近は35%程度になっているようです(Up To Dateによる)。
    最近、健診で肝機能異常を指摘されたことが発見のきっかけになったWilson病を経験しました。

    症例:19歳、男性
    健診で肝障害を指摘され受診。超音波で肝内エコーがかなり乱れ、結節様エコーを認めるとともに、脾腫も認めた。Wilson病が疑われ、精査を行ったところ血中セルロプラスミン・銅の低値、尿中銅排泄の亢進、Kayser-Fleischer ringを認め、Wilson病と診断された。



    Alb 3.4 g/dl, T-Bil 0.6 mg/dl, AST 51 IU/l, ALT 72 IU/l, LDH 192IU/l, ALP 694 IU/l, γ-GTP 83 IU/l, WBC 3600/μl,  Hb 13.2 g/dl, Plt 14.5万/μl
    セルロプラスミン 5 mg/dl (正常値21-37), Cu 42 μg/dl (正常値68-128), フエリチン 302 ng/ml, 肝炎ウイルスマーカー陰性 尿中銅 185.5μg/day (正常値4.2-33.0)
    若年の肝疾患において超音波で結節様エコーを認めるのはWilson病、B型肝炎の頻度が高いです(B型肝炎は感染予防対策が功を奏して現在は激減しました)。

    超音波所見の重要性を認識した症例でした。

    2007年6月9日土曜日

    腫瘤の周りにfocal spared areaを形成した肝血管腫の1例

    腫瘤の周りにfocal spared areaを形成した肝血管腫を経験しましたので以下に画像と解説を示します

    50歳代女性

    腹痛の精査目的で他院で超音波検査を行ったところ肝右葉に5cm大の腫瘤を認め、当科紹介となりました。

    内部エコーは不均一な高エコーで辺縁に低エコー帯あり。非腫瘤部は脂肪肝。カラードプラでは辺縁低エコー部に一致して血流エコーあり。腫瘤内部にはドプラで描出されるレベルの血管は認めませんでした。

    カラードプラ所見は肝癌としては非典型的でしたが、他の所見は肝癌を疑わせる所見であったため造影CTを施行しました。CTでは典型的な血管腫でした。

    腫瘤辺縁に動脈血流が豊富であり、動脈血流優位になったために脂肪が沈着せず、focal spared areaを形成し、肝癌に類似した辺縁低エコーを呈したものと思われました。


    2007年6月6日水曜日

    麻疹による肝炎

    成人の麻疹が流行しています。
    先日、肝炎+皮疹の精査で30代前半の患者さんが紹介されましたが麻疹でした。
    大人の麻疹をみたのは初めてで皮疹も子供よりも華々しかったです。参考までに写真を載せておきます。

    30歳代、男性

    2007年5月下旬より39℃台の発熱あり。感冒として近医で加療を受けていたが改善傾向なし。約1週間しても解熱しないことと、症状発現時から徐々に増悪していた皮疹が発病後5日目には全身に広がり、腕では癒合傾向になったため受診。麻疹既往なし。ワクチン接種なし。

    頸部リンパ節:腫大なし、口腔内:コプリック斑あり  耳介後部:紅斑顕著  躯幹、上肢>下肢 に融合傾向のある点状紅斑~丘疹あり