2007年6月30日土曜日

肝硬変と亜鉛欠乏

最近,亜鉛欠乏で種々の神経症状をおこすことが報告されています。
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2006dir/n2709dir/n2709_03.htm

肝硬変では解毒能が低下してアンモニアが蓄積する肝性脳症をおこしますが,今回,肝性脳症に亜鉛欠乏による意識障害を合併した症例を経験したので紹介します。

63歳,男性,C型肝硬変。約10年間の肝硬変の治療歴あり。3年前から肝性脳症で入退院を繰り返していました。
自宅療養が困難なため長期療養型施設に転院。転院後は胃潰瘍治療薬のポラプレジンク(亜鉛含有)が中止されていました。
転院6週で昏睡状態となり,当科に紹介入院となりました。入院時のアンモニアは123と低下していましたが,意識レベルの改善は今一歩でした。
意識レベルの低下に微量元素特に亜鉛が欠乏している可能性も考慮し、微量元素を点滴で投与したところ,翌日には意識レベルの改善を認め、食事摂取も良好となりました。
微量元素開始前の亜鉛は34μg/dlと低値でした。

最近,肝硬変患者さんでは亜鉛が欠乏しやすく,アンモニア代謝にも影響を及ぼしているとの報告も見られるようになっています。
http://www.ajimed.net/kanzou/tnc/tnc08_01.html

胃潰瘍治療薬のポラプレジンクには亜鉛が含まれており,これを内服するだけで亜鉛欠乏症が改善する報告もあります。
肝硬変患者さんでは亜鉛欠乏にも注意が必要です。




2007年6月23日土曜日

健診で発見されたWilson病

Wilson病は肝臓に銅がたまり、進行すると肝硬変になる病気です。
脳にも銅がたまって神経症状も出ます。昔は神経症状が出てから発見される症例が多かったですが、最近は35%程度になっているようです(Up To Dateによる)。
最近、健診で肝機能異常を指摘されたことが発見のきっかけになったWilson病を経験しました。

症例:19歳、男性
健診で肝障害を指摘され受診。超音波で肝内エコーがかなり乱れ、結節様エコーを認めるとともに、脾腫も認めた。Wilson病が疑われ、精査を行ったところ血中セルロプラスミン・銅の低値、尿中銅排泄の亢進、Kayser-Fleischer ringを認め、Wilson病と診断された。



Alb 3.4 g/dl, T-Bil 0.6 mg/dl, AST 51 IU/l, ALT 72 IU/l, LDH 192IU/l, ALP 694 IU/l, γ-GTP 83 IU/l, WBC 3600/μl,  Hb 13.2 g/dl, Plt 14.5万/μl
セルロプラスミン 5 mg/dl (正常値21-37), Cu 42 μg/dl (正常値68-128), フエリチン 302 ng/ml, 肝炎ウイルスマーカー陰性 尿中銅 185.5μg/day (正常値4.2-33.0)
若年の肝疾患において超音波で結節様エコーを認めるのはWilson病、B型肝炎の頻度が高いです(B型肝炎は感染予防対策が功を奏して現在は激減しました)。

超音波所見の重要性を認識した症例でした。

2007年6月9日土曜日

腫瘤の周りにfocal spared areaを形成した肝血管腫の1例

腫瘤の周りにfocal spared areaを形成した肝血管腫を経験しましたので以下に画像と解説を示します

50歳代女性

腹痛の精査目的で他院で超音波検査を行ったところ肝右葉に5cm大の腫瘤を認め、当科紹介となりました。

内部エコーは不均一な高エコーで辺縁に低エコー帯あり。非腫瘤部は脂肪肝。カラードプラでは辺縁低エコー部に一致して血流エコーあり。腫瘤内部にはドプラで描出されるレベルの血管は認めませんでした。

カラードプラ所見は肝癌としては非典型的でしたが、他の所見は肝癌を疑わせる所見であったため造影CTを施行しました。CTでは典型的な血管腫でした。

腫瘤辺縁に動脈血流が豊富であり、動脈血流優位になったために脂肪が沈着せず、focal spared areaを形成し、肝癌に類似した辺縁低エコーを呈したものと思われました。


2007年6月6日水曜日

麻疹による肝炎

成人の麻疹が流行しています。
先日、肝炎+皮疹の精査で30代前半の患者さんが紹介されましたが麻疹でした。
大人の麻疹をみたのは初めてで皮疹も子供よりも華々しかったです。参考までに写真を載せておきます。

30歳代、男性

2007年5月下旬より39℃台の発熱あり。感冒として近医で加療を受けていたが改善傾向なし。約1週間しても解熱しないことと、症状発現時から徐々に増悪していた皮疹が発病後5日目には全身に広がり、腕では癒合傾向になったため受診。麻疹既往なし。ワクチン接種なし。

頸部リンパ節:腫大なし、口腔内:コプリック斑あり  耳介後部:紅斑顕著  躯幹、上肢>下肢 に融合傾向のある点状紅斑~丘疹あり











2007年5月14日月曜日

Hepatitis C Japan Summit 2007に行ってきました

2007年5月12日に東京で開催されたHepatitis C Japan Summit 2007(シェリング・プラウ主催)に行ってきました。

日本におけるペグ・インターフェロン+リバビリン併用療法の現状と問題点についてしっかりした議論がなされました。

印象に残った内容を以下に示します。

①高齢女性で効果が低下:高齢女性で持続的なウイルス消失(SVR)率が低下することが各施設から報告されました。原因についてははっきりしませんが、投与期間の延長やインターフェロンやリバビリンの減量を慎重に行うべきとの意見が出ました。

②治療開始12~24週でのウイルス陰性化例の扱いについて:この時期にウイルスが陰性化した症例は、開始後早期に陰性化した症例に比べて48週投与では効果不十分になる可能性が高いこと、72週投与を行った症例でSVR率が改善することが報告されました。

③インターフェロンおよびリバビリンの投与量について:インターフェロンの減量がSVR率に大きく影響することが報告されました。ペグ・インターフェロンは1.0μg/kg以上の投与が望ましく、投与量を減量した場合は予測される総投与量の80%以上は確保できるよう投与期間の延長などの工夫が必要との意見が出ました。

④患者さんへのアンケート:副作用の説明が十分できていない事例があることがわかりました。皮膚症状の説明が十分でない例が多いようです。一般向けには http://www.c-kan.net/のページがありますが、皮膚症状の説明は簡単なようです。今後、詳しい説明ページを見つけたら、ブログでも紹介したいと思います。以下にアンケート内容の抜粋を載せておきます。

患者アンケート

投与前に不安に思うこと
  ①     副作用
  ②     治療効果
  ③     治療期間
 ④     費用

途中でやめたいと思う理由
 ①     副作用(全身倦怠感 31%、皮膚症状 23%、貧血 9%、脱毛 9%
 ②     治療期間
 ③     費用

最もつらいと感じた時期
 開始02ヶ月 60%
 開始24ヶ月 31%
 開始46ヶ月 23%

3割の患者さんが治療開始前の副作用の説明が不十分と感じていた
 不十分と思われた副作用
  ①     皮膚症状(かゆみ、皮疹) 31%
  ②     頭痛、体重減少      21%
  ③     消化器症状        12% 

2007年4月23日月曜日

HBV-DNA量と発癌の関係

エンテカビルのPRページに、HBV-DNAと肝硬変、肝癌発生の関係を示したスライドがありました。いずれも海外の一流紙に掲載されている内容であり、ウイルスを抑制することの根拠となる論文と思われます。

2007年4月8日日曜日

エンテカビル耐性ウイルス

B型肝炎ウイルスに対する新しい抗ウイルス薬であるエンテカビルは昨年9月から本邦でも保険適応になりましたが,耐性ウイルスの出現が報告されるようになりました。

先日,京都で開かれたAPASL(アジア太平洋肝臓学会)に出席した先生のお話では,国内治験で抗ウイルス剤初回投与の66例のうち,3年の時点で2例にエンテカビル耐性が確認されたとのことです。他に2例,HBV-DNAが再上昇した症例があり,耐性を確認中とのことです。

一方で,抗ウイルス効果が持続している症例では肝機能や組織的な改善には目を見張るものがあり,急速に肝炎のステージが進行し,肝機能が低下している症例では十分なインフォームドコンセントのもとに使用を考えるべきと思います。