循環障害による肝障害の3回目は慢性うっ血肝です。
急性うっ血肝はこのシリーズの①で紹介したようなAST,ALT,LDHの著明高値が特徴ですが、慢性うっ血肝では胆道系の酵素が上昇する特徴があります。
文献的には心臓移植前後の肝機能を比較したものがあり、うっ血の改善とともにALP、γGTPが改善することが報告されています(Transpl Int. 2005; 18: 697-702)
おそらく中心静脈周囲の細胞が障害を受け、毛細胆管も一緒にやられるために胆汁うっ滞型肝障害を呈するものと思われます。
また、潜在的にうっ血肝が存在する症例で薬物性肝障害をおこすと高度な胆汁うっ滞を呈する症例がありますが、これも同様に中心静脈周囲の障害が強いためと思われます。
2008年2月24日日曜日
2008年2月10日日曜日
循環障害による肝障害②
循環障害による肝障害の2回目はHELLP症候群です。
28歳女性
妊娠35週目に尿蛋白陽性、血圧129/96と軽度の妊娠中毒症の所見を指摘された。同日の夜間に上腹部痛、嘔吐を認めたため、23時頃、救急外来を受診した。来院時、子宮収縮は軽度あったが、内診及び(婦人科)超音波所見にて異常を認めず、ブスコパンなどの投与にて疼痛は一旦軽減したため、帰宅した。帰宅後、再度疼痛増強したため翌朝、再度来院。心窩部に反跳痛を認めたため入院となる。
WBC 15300 (Seg80%、Lymphs6%、Monos7%), Hb 13.3, Plt 3.6万, CRP 0.8, Alb 3.2, ZTT 7.2, TTT 1.2, ChE 203, T-Bil 2.4、D-Bil 1.2, AST 485, ALT 411, LDH 3778, ALP 419, LAP 335, γGTP 19, Cr 1.1, BUN 15, AMY 90, CPK 255, TCH 223
腹部超音波検査にて胆嚢壁の肥厚があり、急性胆嚢炎+pre-DICと診断し、妊娠の継続は危険と考えられ、胆摘+帝王切開術を施行した。胆摘時の肝の所見は虚血と思われる地図状の色調変化が認められた。術後の経過は母子ともに順調で、上昇した肝酵素も速やかに低下した。肝の虚血所見、dataの動きからHELLP症候群と診断した。
HELLP症候群とは、妊娠後期または分娩時に生じる母体の生命の危険に伴う一連の症候を示す状態で3大徴候の英語の頭文字を取って名付けられている。
Hemolytic anemia(溶血性貧血)
Elevated Liver enzymes(肝逸脱酵素上昇)
Low Platelet count(血小板低下)
一般的な症状としては、頭痛(30%)、視力障害、不快感(90%)と、吐気や嘔吐(30%)と、上腹部の痛み(65%)等を呈する。妊娠高血圧症候群に伴うことが多いく、その後に子癇を発症する場合も多いとされる。こういった症状を呈してきた場合、緊急に血液検査を行って診断をつけることが重要である。
HELLP症候群の本態は不明な点が多いが、血管攣縮が重要であると考えられている。双胎の頻度が多いことより、子宮が大きくなり腹腔神経叢を圧迫することより反射的に腹腔動脈が攣縮する可能性が考えられる。このような反射をReily現象という。
さらにAT-Ⅲ低値の例が多いとされており、血管攣縮から血流障害を起こし、抗血栓性に働くAT-Ⅲが少ない状況では微小血栓が生じて、血小板減少、肝酵素上昇を引きおこすものと考えられる。フィブリン沈着や内皮障害をきたした微小血管を通過する赤血球は損傷され、溶血をおこし、病的赤血球の出現となる。治療としては、緊急に急遂分娩または帝王切開妊娠継続の終了させる必要がある。
本例でみられた上腹部痛、胆嚢壁肥厚は肝動脈領域の虚血によるものであったと考えられた。
28歳女性
妊娠35週目に尿蛋白陽性、血圧129/96と軽度の妊娠中毒症の所見を指摘された。同日の夜間に上腹部痛、嘔吐を認めたため、23時頃、救急外来を受診した。来院時、子宮収縮は軽度あったが、内診及び(婦人科)超音波所見にて異常を認めず、ブスコパンなどの投与にて疼痛は一旦軽減したため、帰宅した。帰宅後、再度疼痛増強したため翌朝、再度来院。心窩部に反跳痛を認めたため入院となる。
WBC 15300 (Seg80%、Lymphs6%、Monos7%), Hb 13.3, Plt 3.6万, CRP 0.8, Alb 3.2, ZTT 7.2, TTT 1.2, ChE 203, T-Bil 2.4、D-Bil 1.2, AST 485, ALT 411, LDH 3778, ALP 419, LAP 335, γGTP 19, Cr 1.1, BUN 15, AMY 90, CPK 255, TCH 223
腹部超音波検査にて胆嚢壁の肥厚があり、急性胆嚢炎+pre-DICと診断し、妊娠の継続は危険と考えられ、胆摘+帝王切開術を施行した。胆摘時の肝の所見は虚血と思われる地図状の色調変化が認められた。術後の経過は母子ともに順調で、上昇した肝酵素も速やかに低下した。肝の虚血所見、dataの動きからHELLP症候群と診断した。
HELLP症候群とは、妊娠後期または分娩時に生じる母体の生命の危険に伴う一連の症候を示す状態で3大徴候の英語の頭文字を取って名付けられている。
Hemolytic anemia(溶血性貧血)
Elevated Liver enzymes(肝逸脱酵素上昇)
Low Platelet count(血小板低下)
一般的な症状としては、頭痛(30%)、視力障害、不快感(90%)と、吐気や嘔吐(30%)と、上腹部の痛み(65%)等を呈する。妊娠高血圧症候群に伴うことが多いく、その後に子癇を発症する場合も多いとされる。こういった症状を呈してきた場合、緊急に血液検査を行って診断をつけることが重要である。
HELLP症候群の本態は不明な点が多いが、血管攣縮が重要であると考えられている。双胎の頻度が多いことより、子宮が大きくなり腹腔神経叢を圧迫することより反射的に腹腔動脈が攣縮する可能性が考えられる。このような反射をReily現象という。
さらにAT-Ⅲ低値の例が多いとされており、血管攣縮から血流障害を起こし、抗血栓性に働くAT-Ⅲが少ない状況では微小血栓が生じて、血小板減少、肝酵素上昇を引きおこすものと考えられる。フィブリン沈着や内皮障害をきたした微小血管を通過する赤血球は損傷され、溶血をおこし、病的赤血球の出現となる。治療としては、緊急に急遂分娩または帝王切開妊娠継続の終了させる必要がある。
本例でみられた上腹部痛、胆嚢壁肥厚は肝動脈領域の虚血によるものであったと考えられた。
2008年1月27日日曜日
循環障害による急性肝障害①
循環障害から急性肝炎によく似たデータを示す病態がいくつかあります。今回と次回はそういった病態を紹介します。
1回目は急性心筋炎に伴う著明な肝障害例です。
61歳男性
主訴:発熱、咳
現病歴:3日ほど前より発熱あり、家で市販薬内服し様子を見ていた。風邪の精査目的で当院呼吸器内科を受診。11年ほど前に肝機能異常を指摘されたことがあり、消化器内科もついでに受診。飲酒歴があったためアルコール性肝障害疑いとして検査を進めた。
CRP 11.30 mg/dl, Alb 3.8 g/dl, ZTT 3.9 KU, TTT 0.3 KU, ChE 289 IU/l, T-BIL 0.6 mg/dl, D-BIL 0.2 mg/dl, AST 2465 IU/l , ALT 1649 IU/l, LDH 4389 IU/l, ALP 355 IU/l, LAP 102 IU/l, γ-GTP 141 IU/l, Cr 2.06 mg/dl, BUN 45 mg/dl, TCH 176 mg/dl, AMY 90 IU/l, LPS 104 IU/l, NH3 59 μg/dl
WBC 8500, Hb 15.0 g/dl, Plt 14.2万, PT 16.1秒(PT活性 69.0 %)
超音波では下大静脈、肝静脈の拡大と胆嚢壁の著明な肥厚を認めるとともに心臓の運動低下を認めました。
本例は血圧が低く、循環器内科で精査したところ心筋酵素の逸脱やBNPの上昇、心電図異常を認め心筋炎と診断された。CCUに収容し、循環動態が改善することで肝機能も急速に改善した。
BNP 682.2 pg/ml, TnT-1 (+), CK 2918 IU/l, CK-MB 132.8 IU/l
1回目は急性心筋炎に伴う著明な肝障害例です。
61歳男性
主訴:発熱、咳
現病歴:3日ほど前より発熱あり、家で市販薬内服し様子を見ていた。風邪の精査目的で当院呼吸器内科を受診。11年ほど前に肝機能異常を指摘されたことがあり、消化器内科もついでに受診。飲酒歴があったためアルコール性肝障害疑いとして検査を進めた。
CRP 11.30 mg/dl, Alb 3.8 g/dl, ZTT 3.9 KU, TTT 0.3 KU, ChE 289 IU/l, T-BIL 0.6 mg/dl, D-BIL 0.2 mg/dl, AST 2465 IU/l , ALT 1649 IU/l, LDH 4389 IU/l, ALP 355 IU/l, LAP 102 IU/l, γ-GTP 141 IU/l, Cr 2.06 mg/dl, BUN 45 mg/dl, TCH 176 mg/dl, AMY 90 IU/l, LPS 104 IU/l, NH3 59 μg/dl
WBC 8500, Hb 15.0 g/dl, Plt 14.2万, PT 16.1秒(PT活性 69.0 %)
超音波では下大静脈、肝静脈の拡大と胆嚢壁の著明な肥厚を認めるとともに心臓の運動低下を認めました。
本例は血圧が低く、循環器内科で精査したところ心筋酵素の逸脱やBNPの上昇、心電図異常を認め心筋炎と診断された。CCUに収容し、循環動態が改善することで肝機能も急速に改善した。
BNP 682.2 pg/ml, TnT-1 (+), CK 2918 IU/l, CK-MB 132.8 IU/l
2008年1月13日日曜日
2007年12月10日月曜日
副腎不全を合併したC型肝炎
肝炎ウイルスマーカーが陽性だと、それによる肝障害と思い込んで他の病気に気付くのが遅れることがあります。
今回は副腎不全の診断に苦慮した1例を紹介します。
症例は62歳、男性。食思不振で当院受診。肝障害およびHCV抗体陽性があり、当科紹介。強ミノCを投与するも肝障害の改善傾向に乏しく,全身倦怠感,食思不振は増強した。心身症を疑い,初診から3ヶ月目よりデプロメール開始するも無効。 初診後4ヶ月目の 血液検査で低Na血症(124 mEq/l)を認めたため,副腎不全を疑いホルモンを測定したところコーチゾールS 1.1μg/dl,17-KS「 0.3mg/day, 17-OHCS 0.8mg/dayと副腎不全であった。さらにTSH 0.30 μU/ml, free-T4 0.38 ng/dl, free-T3 1.7 ng/dlと甲状腺機能低下症も合併していた。MRIで下垂体に嚢胞あり,これによる圧排で副腎および甲状腺刺激ホルモンの分泌が低下した機能低下症と考えられた。
ステロイド補充(ソルコーテフ100mg→コートリル10mg2錠)+甲状腺ホルモン内服で、症状および肝機能は著明に改善した。
今回は副腎不全の診断に苦慮した1例を紹介します。
症例は62歳、男性。食思不振で当院受診。肝障害およびHCV抗体陽性があり、当科紹介。強ミノCを投与するも肝障害の改善傾向に乏しく,全身倦怠感,食思不振は増強した。心身症を疑い,初診から3ヶ月目よりデプロメール開始するも無効。 初診後4ヶ月目の 血液検査で低Na血症(124 mEq/l)を認めたため,副腎不全を疑いホルモンを測定したところコーチゾールS 1.1μg/dl,17-KS「 0.3mg/day, 17-OHCS 0.8mg/dayと副腎不全であった。さらにTSH 0.30 μU/ml, free-T4 0.38 ng/dl, free-T3 1.7 ng/dlと甲状腺機能低下症も合併していた。MRIで下垂体に嚢胞あり,これによる圧排で副腎および甲状腺刺激ホルモンの分泌が低下した機能低下症と考えられた。
ステロイド補充(ソルコーテフ100mg→コートリル10mg2錠)+甲状腺ホルモン内服で、症状および肝機能は著明に改善した。
2007年11月18日日曜日
自己免疫性肝炎と誤診しかけた薬物性肝障害
一般の方は健康食品で肝障害をおこす認識はほとんどなく、病歴を聴取する時に「クスリ」として申告してくれないことがしばしばあります。
今回は、自己免疫性肝炎と誤診しそうになった症例を紹介します。症例は47歳、女性。SLEで経過観察中でした(ステロイド内服なし)。肝障害の悪化があり精査目的で入院となりました。抗核抗体2560倍、γグロブリン1.47g/dl、ウイルスマーカー陰性、飲酒なし。以上の病歴から自己免疫性肝炎の国際スコアが生検所見なしでも14点(疑診)であり、自己免疫性肝炎を強く疑いました。 10月6日に肝生検を施行。炎症細胞浸潤はほとんどなく、肝細胞の変性所見が目立ち、代謝障害が疑われる組織像でした。病歴を再度聴取すると、入院の1年前から健康食品を内服し 、入院1ヶ月前より内服量を増量していたことが判明しました。健康食品を10月8日から中止すると肝機能は1週間後あたりから著明に改善しました。
最近は健康食品による薬物性肝障害も増加しています。2005年の肝臓学会誌に民間薬、健康食品による薬物性肝障害の論文も掲載されており、肝炎の鑑別として注意が必要な領域と思います。http://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/46/3/142/_pdf
今回は、自己免疫性肝炎と誤診しそうになった症例を紹介します。症例は47歳、女性。SLEで経過観察中でした(ステロイド内服なし)。肝障害の悪化があり精査目的で入院となりました。抗核抗体2560倍、γグロブリン1.47g/dl、ウイルスマーカー陰性、飲酒なし。以上の病歴から自己免疫性肝炎の国際スコアが生検所見なしでも14点(疑診)であり、自己免疫性肝炎を強く疑いました。 10月6日に肝生検を施行。炎症細胞浸潤はほとんどなく、肝細胞の変性所見が目立ち、代謝障害が疑われる組織像でした。病歴を再度聴取すると、入院の1年前から健康食品を内服し 、入院1ヶ月前より内服量を増量していたことが判明しました。健康食品を10月8日から中止すると肝機能は1週間後あたりから著明に改善しました。
最近は健康食品による薬物性肝障害も増加しています。2005年の肝臓学会誌に民間薬、健康食品による薬物性肝障害の論文も掲載されており、肝炎の鑑別として注意が必要な領域と思います。http://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/46/3/142/_pdf
2007年11月11日日曜日
慢性肝炎の治療ガイド 2008
日本肝臓学会 編纂の「慢性肝炎の治療ガイド 2008」が 文光堂から発行されました (2007/10)。
内容は急性肝炎から肝癌まで広範にわたっていますが、非常にコンパクトにまとまっており、研修医の先生にはお勧めですし、予備知識のある患者さんも十分理解できる内容と思います。
肝臓学会公認の本ですので、現時点では最も信頼に足る内容を持った本といえます。
http://www.amazon.co.jp/%E6%85%A2%E6%80%A7%E8%82%9D%E7%82%8E%E3%81%AE%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89-2008-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%82%9D%E8%87%93%E5%AD%A6%E4%BC%9A/dp/4830618671/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1198033046&sr=1-1
内容は急性肝炎から肝癌まで広範にわたっていますが、非常にコンパクトにまとまっており、研修医の先生にはお勧めですし、予備知識のある患者さんも十分理解できる内容と思います。
肝臓学会公認の本ですので、現時点では最も信頼に足る内容を持った本といえます。
http://www.amazon.co.jp/%E6%85%A2%E6%80%A7%E8%82%9D%E7%82%8E%E3%81%AE%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89-2008-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%82%9D%E8%87%93%E5%AD%A6%E4%BC%9A/dp/4830618671/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1198033046&sr=1-1
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